私が団地に惹かれる理由の一つは、あり得た、又は、あり得るかもしれない生活や
行動の可能性が混在していて、よく見える場所だからだ。同じ間取りなのに、住む人
の数だけ場のバリエーションがあり、それを想像する楽しみがある。


 そのあり得たかも知れない可能性を、意図的に見つけやすくしているものに、オラ
ンダの建築家集団MVRDVのつくる建築がある。
http://www.mvrdv.nl/mvrdv.html
 
 フロア毎に廊下の仕上げ材料・色を変化させ、違う印象を与えるもの。四角い建物
から、様々な広さと様々な色の手すりパネルをもつバルコニーがレゴブロックのよう
に、飛び出して配置されたもの。(この集合住宅は、某自動車のCMに使われていた。
バルコニーだけでなく、住戸1ユニットそのものも宙に飛び出して配されている。)
  →http://www.mvrdv.nl/015_wozoco/index.php
 同じフォルムなんだけど、仕上げ材料が違う(アルミ・木・青色ウレタン・スレート
・オレンジの瓦)家が集まった街区。家は、屋根・壁全てが同じ仕上げ材料で
包まれているため、子供が積木で作った「おウチ」を気ままに並べちゃったような街
になっている。
 
 これらのシンプルで親近感のある形、カラフルの色使いは、子供のおもちゃのよう
で、視覚的にかなり楽しい建物になっている。


 個性は、住む人によって自ずと生まれてくるのだから、箱はむしろシンプルでよく、
自然の移り変わりや人々の往来を映し出すスクリーンのようなものなのだ、という考え
方もあるだろうが、MVRDVは、もっと積極的に仕掛けている。
 建築を見る取っ掛かりを提示し、こんな風にいろいろなカタチがあってもいいんだ
なぁと、なんとも開放的な感情を湧かせてくれる。色や仕上げを変えるという簡単な
方法で(でも、本当にやってのけるのには相当の情熱がいるだろうなぁ。施工業者泣
かせ?)、住戸毎に独自の表情を持たせ、そのことは、他のフロアは?お隣さんの家
は?と好奇心をわかせ、住民同士のコミュニケーションを促すことにもなるだろう。


 自販機やエレベーターなど、ボタンを見ると押したくなったり、ボールペンを持つ
とカチカチしたくなるように、お隣さんにふっと話し掛けたくなったり、エレベータ
ーでなく階段を登ってみたくなったり、街を散歩してみたくなったり、そんな衝動を
喚起する空間。

 
 住み続け、人々と繋がっていく中で、様々な生活や行動の可能性を発見をし、
今の自分と、他の可能性を持つ自分を重ね見て、自他の存在を確認させてくれる。
それをちょっと後押ししてくれる力を、建築は持つと思う。